★第32回連続共育セミナー
「もしものときにパニックにならないために」
2010年6月24日(木)18:00〜20:00に行われた連続共育セミナーの内容(概要)をお伝えします。
お話は今里鐵男さん(元海上保安官)
内容
災害はいつやってくるかわかりません。災害が発生したときに、パニックにならないためにどうしたらいいか。
海上保安官として海難事後、海上汚染、台風襲来の備え、阪神淡路大震災など、さまざまな現場での経験から、日常における災害への備えなどをお話いただきました。
陸の上の安全は警察が、海の上の安全は海上保安庁が守っています。30年程前は警察と海上保安庁は事件を取り合っている面もありましたが、現在は仲良く人事交流もしています。税関とも交流し、自衛隊には武器の使用などの研修に行かせてもらっています。
海上保安庁は海の安全管理、事故防止、不審船対策、覚せい剤や拳銃の密輸などに対し、シミュレーションをしながら対処しています。
巡視船艇は、全国の海上保安署に配備され、海洋秩序の維持、海難救助、海上災害の防止、海洋汚染の監視取締り、海上交通の安全確保などに従事しており、安全で美しい海の実現を目指し、365日、24時間活躍しています。海上の勤務は30tのCL型は日帰り、65〜80tのPC型は湾内を哨戒しますが1晩泊まりです。高速特殊警備船のPS型は3〜4日行動、350tのPM型は4〜5日、さらに大きい巡視船になるとPL型は10日、ヘリコプターを搭載しているPLH型は20日間となります。
海難救助で一番大変なのは岸の近くです。巡視艇は近づくことが出来ず、ゴムボートも下ろしにくいからです。風上200mに碇を下ろし、そこからゴムボートにロープをつけて流しますが、2mの波でも振幅は4mあり、下に下がった時に貝殻がびっしりついていたりするとボートが破れてしまうこともあるのです。救助には小型船安全協会や漁船にも協力していただいています。
映画『海猿』で有名になった特殊救難隊は、泳ぎの上手い人の中でもさらに訓練を重ねた人たちで構成された部隊です。1隊が5人(隊長1人+2人+2人)で6隊あり、そのうちの1隊は新人の訓練を行っています。羽田から航空機で基地に下り、そこからヘリコプターで現場へ向かいます。溺れている人はパニックになっているので、後ろから近づこうとしてもなかなか難しいのです。ペットボトルでもいいのでロープで結んで投げ、つかまってもらうようにします。また、下流の人に知らせて棒につかまらせるなどします。離岸流の場合は一度沖に流されてから戻るようにします。
<自己救命策3つの基本>
●ライフジャケットの常時着用
●防水パック入り携帯電話をいつも持つ
●海の事故は「118番」へ
阪神淡路大震災の時は船に水を積み、現地に向いました。また、多くの物資が企業などから届けられ、荷をトラックから降ろしていくところまではしてくださるのですが、それを船に積む人員がいないことは困りました。自然の力には人間は負けてしまいます。しかし、その時はじっと耐え、それが過ぎ去れば人間は負けないことを現場で感じました。
工作船と銃撃戦になったときに負傷者が出ました。このような時、報道への対応も危機管理の大きなウエイトを占めます。決してうそを言ってはいけません。知っていて「知らない」「わからない」というのもうそになります。言えない時には「今は言えない」と言うことです。
台風や危険物積載船の衝突事故、麻薬・覚せい剤の水際作戦、地震、工作船など、様々な危機の場面からの教訓として、危機が起きたときはまず気が動転しないこと(パニックに陥らないこと)が大切です。そのためには反復訓練を日頃から行い、常に再確認すること、意志の疎通を図ることに努める必要があります。「ハインリッヒの法則」は 1つの重大事故や災害の背後には29の軽微な事故・災害があり、その背景には300の異常が存在するというもので、つまり、事故に至らない「ヒヤリ・ハッと」する状況が300回あったら、そのうちの29回は例えば転んで怪我をしたりするような事故があり、1回が大事故になっているということです。ヒヤリ・ハッとする状況が起きているときに、事故・災害を未然に防ぐ対処をすることが大切です。佐々淳行氏は危機管理のノウハウとして「悲観的に準備し、楽観的に対処せよ」「最悪に備えよ」「勢力の逐次投入は愚の骨頂」と述べています。「足りなければ足す」という考えではより甚大な被害を招くため、危機に備えるには節約の中でも人・物・金を惜しまないこと、まさに「最悪に備える」ことが大事なのです。