大和市民活動センター


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★第99回連続共育セミナー

 

7月の共育セミナーは、「ポストコロナ時代の社会貢献活動」シリーズの3回目として「福祉施設におけるアート活動の実践とその実践が社会と出会うということ」をテーマに、中津川浩章さん(美術家、障害福祉サービス事業所アール・ド・ヴィーヴルのアートディレクター、フリーのキュレーター)と萩原美由紀さん(認定NPO法人アール・ド・ヴィーヴル理事長、同施設長)をお招きして、トークセッション形式で会場とZOOM参加者23名の参加を得て開催しました。(県外からの多くの参加者に感謝!!)福祉施設でのアート活動といった切り口で、今回のテーマを設定しました。お二人のパッションと、アール・ド・ヴィーヴルをオープンするまでに、数多くあった困難をエネルギッシュにチャレンジ精神で乗り越え、NPO法人を立ち上げられたことをいきいきと語られ、障がいがある人がアートを仕事として、社会とかかわり、自分らしく生きる姿が映像としてはっきり見えて、楽しくなったセミナーでした。

 

想いを人に伝えて、具体的な「ロードマップ」を描くと、ものごとは動きはじめ、支援者は自然と現れる。そして、アートはみんなを自由にする
写真提供:アール・ド・ヴィーヴル 文責:船越 英一

 

大和市民活動センターは、市民活動、NPO活動の支援を担っている中間支援組織ですが、支援の現場で関わる団体への福祉的アプローチは得意でないというか、福祉に関して総合的な知識を持ち合わせている専門的なスタッフがいるわけではありません。
そんな中で、「あの手この手」6月、7月号にインタビュー記事を掲載させていただこうと、小田原市のアート活動を「仕事」にされている「アール・ド・ヴィーヴル」(生活介護・就労支援B型)を訪ねました。

アール・ド・ヴィーヴルの前に立つ中津川さんと萩原さん
一番右は、滋賀県甲賀市やまなみ工房施設長の山下完和(まさと)さん


そこで、通所されている皆さんが、いきいきとその人オリジナルの表現したいアート活動を、自由にしている姿に出会い、また、カフェでは、オリジナルのオンリーワンのお皿にのったガトーショコラを食べることもできました。(残念ながら、セミナーで萩原さんからお話があった、小田原の無農薬レモンを使ったレモンケーキは品切れでしたが)
今回のセミナーでお話があったように、通常、B型の施設での仕事は内職仕事で、黙々と慣れない手つきで通所される方が行っているイメージですが、「アール・ド・ヴィーヴル」の皆さんのアート活動(仕事)は楽しい活動そのものに感じました。(雰囲気がとても明るかった)
今の「アール・ド・ヴィーヴル」に至るまで、ダウン症の親の会の萩原さんが、他のメンバーとともにアート活動を仕事とする福祉施設を作ろうと明確に目標に掲げて、中津川さんを紹介して頂ける方と出会い、中津川さんと喫茶店で会って、想いの丈を中津川さんに素直に伝えられて、まず、ワークショップから始めるといった、地道なロードマップを描かれたことをセミナーでお話されました。構想から約10年の歳月をかけて、萩原さんは小田原市の教育委員を2期8年務められる傍ら、さまざまな支援者に出会い、目標を実現させたそうです。ワークショップの開催にあたっては、絵の具で汚すかもしれないし、障がい者ということも承知の上で、場所を貸してくれるオーナーさん(幸運なことにNPOの理事さんだったそうです)との出会いもあったとのことです。ほかにも、大変なご苦労があったに違いないのですが、お二人のお話からはそんなことを全く感じさせないオーラ、エネルギーがありました。

発注を受けて、「アール・ド・ヴィーヴル」のみなさんが、

ライブペイントした箱根の工房 失敗できないという緊張感は

中津川さん、萩原さんにはあったが、描いたメンバーは垂れた

絵の具も次に生かして繋げていった。


  ぼくは、中津川さんと、一般市民向けにさまざまなセミナー(第三世界に足場を置いた社会・経済・政治関連分野がメイン)を開催するNPO法人の「表現することは生きること」というセミナーを受講することで出会ったのですが、ある年、そのセミナーの一コマで、「アーツ千代田3331」という千代田区の中学校を改修してできたアートセンターで、現代アート作品を鑑賞した後、そこで体験したワークショップは衝撃的というか、ぼくにとって、なるほどと思った出会いでした。中津川さんが主宰されている障がいがある人が制作をしている現場で、そのセミナーの受講生として、画用紙に向かったのですが、障がいがある人の表現や色遣いがなんて自由で惹きつけられるんだろうとただただ感じて、こんなに自由でいいんだと思い、僕自身も他の受講生も気持ちが楽になって描けたことを記憶しています。
  共育セミナーでは、川崎埠頭にある株式会社から依頼を受けて、「アール・ド・ヴィーヴル」が壁画(東京湾岸物流センターウオールアート制作プロジェクト)を描いたことを記録したYouTube映像を観ることができました。

2019年、小田原市がラグービーワールドカップに出場する豪州ワラビーズのキャンプ地になったのにちなんで、障がい者

も、健常者も、ラグビー好きな高校生もみんなで描いたパッカー車。描く場所は、デパートの敷地を借りた。油性ペンキを使ったので、中津川さんは養生に大変な神経を使われたとのこと。おかげで、ワラビーズカラーの黄色と黄緑基調の素敵なデザインとなる。このパッカー車が、施設の前を走ると、描いたメンバーは今でも歓声をあげるそう。

一番最近のアール・ド・ヴィーヴル展(小田原ダイナシティWEST ギャラリーNEW新九郎)


この事業は、ある会社がユニバーサルデザインが専門のデザイナーに依頼して企画し、地域の施設の方と一緒に制作したいという意図で実現したものでしたが、自家発電設備の壁画を、クライアント、中津川さん、萩原さん、アール・ド・ヴィーヴルに通う人など、みんなが一緒に、対等に意見を出し合って制作する現場を紹介したドキュメンタリーでした。その結果、計画よりずっとよいものになり、アール・ド・ヴィーヴルに依頼された仕事が、地域の人も楽しめ、依頼した会社の社員にとっても誇れるものになった事例として紹介されていました。中津川さんは、この動画のなかで「日本中の壁という壁にこんな素敵な絵が描かれたらいいな」とコメントされています。
アール・ド・ヴィーヴルのみなさんが制作された作品は、小田原市の企業、銀行、公共施設に置いてもらえたり、2021年9月にオープンした文化施設のホワイエに地元信用金庫の依頼で中津川さんのディレクションのもと、全長6メートルの壁画を完成させたり、この7月には、小田原市のデパートのギャラリーで「自分らしく生きる」と題した展覧会を中津川さん、萩原さん、通所者のみなさんのギャラリートーク付きで開催されました。
このように、地域、企業とコラボレーションしたアート活動が、先駆の施設から多くの地域に広がっていくことを希望します。なぜなら、彼らは特別な美術教育を受けた人ではなく、たまたま、その地域に住んでいて、その施設に入所した人なのですから。誰もが持っているアートの力が、多様な人に勇気、自由を提供してくれます。

お二人の背景の写真は、中津川さんがコーディネートされた「表現することは生きること」というタイトルのセミナーで、甲賀市の「やまなみ工房」を訪ねた際、筆者が工房内の活動、作品などを撮影したもの